福岡高等裁判所 昭和53年(う)140号 判決 1978年6月27日
被告人 柳井是宣
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役三月及び罰金二〇万円に処する。
この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
本件控訴の趣意は、検察官疋田慶隆提出(同岡田照志名義)の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人岩本幹生提出の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。
右控訴趣意(法令適用の誤り)について。
所論は要するに、原判決は、利息天引による金銭貸付の場合において、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下出資法と略称する)五条一項違反の罪が成立するのは、現実に法定限度を超過する利息を受領した場合に限るとの見解のもとに、原審昭和五二年(わ)第四五八号事件の別紙一覧表番号5の公訴事実につき、高金利貸付の事実を認めながら、現実に利息受領の事実がないことを理由に、右五条一項の処罰規定に触れないとして被告人に対し無罪の言渡しをなし、さらに、原判示(九)ないし(一二)に対応する各公訴事実は契約罪としての起訴であり証拠上も右契約の事実がいずれも認定できるにも拘らず、前示見解のもとに訴因変更の手続もしないまま利息受領の点まで認定した上、有罪を是認するのであるが、右の法律上の見解は誤りであつて、その結果出資法五条一項、三項の適用を誤り、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである(本件各公訴事実は、刑法四五条前段の併合罪の関係にあり、併せて一個の刑を科すべき場合である)から、原判決は破棄を免れないというのである。
よって按ずるに、出資法五条の法意は、いわゆる街の金融業者による高金利貸付のもたらす弊害を防止するを目的とせるものであつて、その第一項において、一日当たり〇・三パーセントをこえる割合の利息の契約をし、又はこれをこえる割合による利息を受領する行為を処罰することとし、利息受領によつて実害が生じた場合はもちろん、その具体的危険を伴うにすぎない契約の段階においても、これを処罰の対象にすることにより高金利取締りの実効を期するものである。
しかして、現実の取引社会では貸付に際し、予め利息を計算して元本から控除する利息天引きの方法が広く行われ、これにより実質的に極めて高率の利息を契約し且つ受領することとなり、出資法五条一項による高金利の規制は右の方法により蝉脱される結果となる。そこで、かかる脱法的行為を禁ずるため同条第三項を設け、「第一項の規定の適用については、利息を天引する方法による金銭の貸付にあつては、その交付額を元本額として計算するものとする」と規定し、これは利息天引きの方法によつた場合の利率の計算方法を定めたものであるが、これによつて利息天引きの方法で貸付けた者は、すでに貸付時において右の計算方法で算出された利率による利息の契約をしたものとなることが明らかであり、このようにして算出された利息が同条第一項の規定する割合を超過する場合には、そのような契約をした段階において処罰の対象となることは立法の趣旨及び規定自体の解釈からも明白である。したがつて、原判決のいうように、ひとり利息天引きの場合の高金利に限つて、該利息を受領せるときのみを可罰的な行為とし、契約を不可罰行為と解すべき理由は存しない。
そうしてみれば、原判決の右解釈は誤りであり、該見解のもとに、原審昭和五二年(わ)第四五八号事件別紙一覧表番号5の公訴事実につき、利息の天引による一日当り〇・三パーセントをこえる契約を是認しながら、違反利息は認められないとして無罪としたこと及び原判示(九)ないし(一二)の各事実についても、各利息の天引による一日当り〇・三パーセントをこえる契約を認めながら、いまだ違反にならないとし、各利息受領の段階に至つて有罪を認定したのは、いずれも同法条の解釈、適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである(これら有罪及び無罪部分は併合罪の関係にあつて、一個の判決をもつて処断すべきものである)から、原判決は全部破棄を免れない。論旨は理由がある。
そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条に則り原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い自判する。
(罪となるべき事実)
(一)ないし(一三)、右各事実は原判示(一)ないし(一三)のとおりである(但し(九)ないし(一二)のうち各利息受領を認定せる部分を除く)から、ここにこれらを引用する。
(一四)、被告人は昭和五〇年一二月三〇日、右事務所において、小林哲也に対し、期間三二日とする一〇〇万円の貸付として利息一〇万円を天引した九〇万円を交付し、もつて同人との間に、九〇万円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合をこえる〇・三四七パーセントの割合による利息の契約をしたものである。
(右(一四)に関する証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の前示(一)ないし(一四)の所為はそれぞれ出資法五条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い前示(六)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により以上の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役三月及び罰金二〇万円に処し、なお、被告人において受領した制限超過の利息のすべてを返済し、貸金業を廃業して現在肥料、飼料の販売業を営んでいることその他諸般の情状を考慮し、右懲役刑の執行を猶予するのが相当と認めるので、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 平田傭雅 川崎貞夫 矢野清美)